第四章

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突然の登場で、初対面にもかかわらずその見知らぬ生徒から汚い言葉遣いが飛び出る。 今回の事件のことを知っている生徒なのだろうか、しかしそんな言い方しなくても良いのではないかと思わずムッとした表情で相手を見上げる。 歩クンは肩に手を置いた生徒を認識すると、表情を少し硬くし、パイプ椅子から立ち上がった。 「ご迷惑をお掛けしてすみませんでした・・・風紀委員長」 「風紀委員長・・・?」 この自分の目の前に立っている生徒が・・・? 歩クンの言葉を聞き、顔をしかめた。 いや、あまりにも「風紀」っていう言葉とかけ離れすぎだろう・・・この人。 初対面でじろじろと見てしまうのは失礼だという自覚はあるが、風紀委員長という言葉が信じられなくて観察してしまう。 髪の毛が黒なのは全く問題ない。完全にワックスで髪の毛をセットしているが、整髪料禁止とかいう校則を守る生徒は今時少ないだろうと思い、スルーする。 制服のスラックスは腰履き、シャツなんてスラックスに入れてきちんと着るわけもなく第3ボタンくらいまで開けており、中から黒のインナーが見えている。 そもそも、この金持ち学校らしいお上品なブレザーは着ておらず、グレーのパーカーを羽織っている。所々見えるじゃらじゃらと付けたピアスやら指輪やらなんやらはもう論外である。 これが本当に金持ち学校の風紀委員長かよ・・・。しかも顔は格好いいはずなのに、迫力すごすぎてなんか怖いし・・・。 「観察は終わったか?」 え、と思いその風紀委員長の足元を見ていた視線をぱっと相手の顔に戻すと、にやにやと笑っている顔でこちらを見下ろしていた。 「えー・・・すんません、じろじろ見ちゃって」 俺は相手に分かるくらいじろじろ見ていたのか、ととりあえず風紀委員長とやらに謝る。 「その人が風紀委員長とか信じられない」 「は?」 今心の声を思わず口にしてしまったのか? いや、何も言ってないはず 「って彼は思ってたりしてね。」 また、新たな生徒が今度は俺の背後から現れた。 今度の生徒は、爽やかなお兄さんという雰囲気の生徒であった。 「初めまして、庶務くんと話してるとこごめんね?僕は、風紀副委員長やってる3年の菊池朝陽で、そっちの怖そうなのが風紀委員長の同じく3年、桑原有斗っていうんだ。ちょっと転校生のことで同室の九条くんにお話聞きたくて」 風紀委員長に風紀副委員長・・・ 二人とも顔面偏差値が高い上に、なんか役職名がついているということはこの人達も面倒くさい人物なのか・・・ 「俺に話って・・・たぶんそんなに話せることないと思うんですけど」 あまり長い時間一緒にいない方がいい気がする。特にその風紀委員長がよくない気がする。 歩クンがさっきからこわばった表情しているし、あんまり良い人じゃないのかもしれない。 風紀委員長と副委員長を見ている歩クンに視線をやろうとすると、その隣に立っている風紀委員長とまた目が合ってしまう。 さっきからにやにや笑っているが、何がそんなに楽しいかがわからない。 「そんなに俺が怖いか」 そう言いながら風紀委員長がパイプ椅子に座っている俺の目線に合わせるように、屈んだ。 風紀委員長との顔の距離は、一気に30センチほどまで縮まり視線をそらしにくくなる。 内心何をされるか分からず緊張しながら、口を開いた。 「1年生からしたら3年生の先輩なんて皆怖いですよ。」 ね、と警戒してないですよ風ににっこりと笑ってみせる。 すると風紀委員長が、急に俺の頬に張られている絆創膏をするりとなでた。 「、なに・・・」 なにするんですか、というか何をしようとしているんですか。 ゴツい指輪をいくつもはめた右手が俺の左頬を包む。親指が目元をなぞり、手の動きが止まったため、視線を手から風紀委員長の顔に戻すと真剣な表情をしていた。 「いや、あの・・・」 風紀委員長は無意味に俺の左頬を触り、一言も発しない。 視界の端に見えている歩クンも動く様子はなく、副委員長も何も言わない。 この空間は何なのか、なぜ誰も喋らないのか。 遠くからはおそらく風紀委員の生徒であろう忙しそうな声が聞こえる。 これはもしかしてキスされるとかではないよな? 親衛隊とかいうのが存在する普通の男子校とは全く違うこの学校でも、さすがに初対面で後輩に意味も無くキスする人はいないだろう。 これ以上顔が近づいたらどうしようと考えていると、風紀委員長の右手が後頭部に周り力強く引き寄せられた。
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