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そんな力也を見てすぐに分かった。
力也は彼女に恋していると――……。
口では俺の好きな人が彼女だと言ってはいたが、それは力也の方の間違いなのではないかとさえ思った。
申し訳ないけど、俺は彼女と会っても記憶を取り戻すどころか、いつも感じる頭痛さえ起きなかったのだから。
「それじゃ私達はこれで」
「お邪魔しました」
あれから母さんも交えて話題は尽きることなく繰り広げられ、気付けば夕方になっていた。
玄関先で力也とふたり、ふたりを見送ったものの、どうしても気になってしまうのは桧山さんだった。
今日はいつもと様子が違った。
いつも通りに笑っているようだったけれど、心ここに在らず状態で、ずっと上の空で。
そして少しだけ悲しそうにも見えた。
様子がおかしいことに気付いていながらも、みんなの手前声を掛けることが出来ず、結局帰って行ってしまった。
なにかあったのだろうか……?それとも悩み?
みんなとの会話を楽しみながらも、そんなことばかり考えては、何度も桧山さんの様子を窺ってしまっていた。
「帰っちゃったな」
ふと投げ掛けられた言葉に我に返る。
その声に力也を見れば、名残惜しそうに玄関を見つめていた。
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