第三十五話

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「……くっ!」  男は少年に向かって何発か、私には当たらないように発砲した。なぜだ?男は私を殺すか負傷させる気でいるのではないのか?どうして庇った?何も言えないまま呆然と、足元に血を流して転がっている少年を眺めた。 「ゼロコードが動き出すとはね」  人体兵器通称、コード・ウエポンを製造するにあたって、暴走や不具合といった問題が頻発しておこるものを、ゼロコードと呼ぶのだ。そしてそれらはほとんどが廃棄処分にされた。 「それならどうして彼は―――」 「処分されなかったのか?ですか」  未だ動けずにいると傍まで男がきて、私の腕をやんわりとつかんで、立たせてくれた。  そして世界が破滅するのではないかと思うほどに、残酷な物語が語られ始めた。そう、事実とは程遠く、物語を聞かされているような感覚であった。 「出来るわけがないさ。養子とはいえ研究チームのリーダであった、智近夫妻の身内だからな」 「雁夢」  男は何ともいえない顔でこちらを見た。その名前を知っていたことに対する驚き、以前は一緒に生活していた姉弟だと確信した苦痛が滲み出ていた。この人は普通だ。あんな奇天烈な写真を送りつけるような狂人には思えなかった。それなら誰が?  新たな疑問が生まれた時、がしゃがしゃとその空間には不釣り合いな音がした。おそるおそる振り返ると、少年がこちらへニタリと不気味に笑い、手を伸ばしてきた。 「弱点とかは?」 「一定の哀歌で強制停止できるらしいが、曲名までは把握していない」  その会話の間にも、一歩また一歩と、こちらに近づいてきた。  私は咄嗟にクレイサスを歌った。男が狼狽えるのも無理はない。教会では讃美歌の代名詞という、位置付けが一般的だからだ。しかし私にとっては、この歌こそが、エレジーだった。  徐々に動きが鈍くなり、ギギギと異質な音を立てて、その動きを完全に止めたかと思えば、それきり無音が続いた。それでは完全に鉄くずのようだ。人間らしさがまるでなくなっていた。 「これ以上は安全を保障できない。ここを出た方がいいだろう」 「待って!もう一人一緒に来ている人がいるの」  どうか無事でいてほしい
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