第三十五話

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 頼ってしまったら巻き込んでしまう、困らせてしまうから駄目だと思っていた。しかし柊先輩はそれでも私を信じてくれた。普通なら見離されてもおかしくない。 「私もう一度だけ透視して、場所が判明したら、柊先輩と一緒に捜査します!」 「……行って来い。但し無事に帰ってこい」  柊先輩から写真を受け取り、再び正座した。すると向かいに座っていた柊が、裏に何か書いてあるというので、ひっくり返してみると、赤いマジックで”いつボクに辿り着くかな?君に会えるのが楽しみだ。もちろん彼も”と書かれていた。  このボクを名乗る人物が、捜査妨害している人物だとしたら、彼は誰だろう?面識がないのになぜかこの”彼”が、私に度々思念を送ってきている人物のように思えた。  もしそうだとしたら、彼の目的は何だろう。危害を加えてきそうな人物には全く思えなかった。しかしボクからは明らかな危険性を感じた。この二人の関係性は?考えれば考えるほどわからない。まるで深みにはまるようだ。  その疑問を一つでも減らせるようにと、私は写真をテーブルの上に置いて、上から右手を翳した。触れ方によっては、また倒れてしまう可能性があったからだ。  指先から一気に流れ込んできた、情報の束を解析していく。視界の悪い空間、むせ返るような薬品の臭い、床に散らばるガラス片、寂れたコンクリートの建物、ネオンで灯されていたであろう看板が見えた。 「西…循環器病院」  一部が破損していたため、そこまでしか読み取れなかった。私は監禁場所の正確な位置に、辿り着けなかったことを悔やみ、後ろめたさから目を伏せた。しかし柊はそれだけでも理解できたようで、神妙な面持ちをしていた。 「西原循環器病院か」  柊は静かな口調でそう告げた。繭子がその時柊に何か言おうとしたが、右の手のひらを向けて制した。表情に不安の色が濃くさした。二人ともわかっているのだ。完全な無傷で帰ってこられる保証がどこにもない事、それでも送り出さなければ私と柊先輩が、後悔と十字架を一生背負わなければいけない事―――その全てを……理解していたのだ。  私たちは玄関で別れて、柊先輩の車で西原循環器病院に向かった。 「私どれくらい眠っていました?」 「今日でちょうど二週間だ」  そんなに眠っていたのか。やけに体がだるく、調子が悪かったのはそのせいだ。しかし眠りすぎて嘔吐したのは初めてのことだった。
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