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気が付くと白い壁の狭い病室にいた。
朦朧としたまま辺りを見ているとドアが開き、彼女が…間中梢が入ってきた。
「気が付いたんですね。気分は悪くありませんか?」
「大丈夫です」
微笑んだ彼女はベッドの横にしゃがみ、俺に透明な急須みたいな容器の水を差し出した。
「少し飲んで。喉が渇いたでしょう?」
水を飲みながら、俺は彼女の美しさに見とれていた。
美人なんだけど少したれ目がちの目が愛嬌があって可愛いい。
「白衣の天使だね」
思わず口に出る。
彼女は驚いた顔で俺を見た。
その顔がまた可愛くてベッドの横にしゃがんでいた彼女の頭を思わず腕を伸ばして引き寄せようとした。
が、その瞬間、
「いったぁー」
動いたせいで電流が走ったように背中の傷が痛んだ。
その時、立ち上がりざまに
「天罰ね」
と笑いもせず小さく言った彼女の冷たい目は今も忘れられない。
この一瞬に彼女と俺の力関係は決まってしまったのだ。
それから5日間傷がどうにか塞がり抜糸も済み退院するまでに、俺は彼女を口説き続け、彼女の冷たい言葉と看護以外の冷たい仕打ちを受け続けた。
退院の日の最後の診察で俺は改めて先生に礼を言った。
「お世話になりました」
向かい合った椅子で爺さんは俺を見て一瞬笑って、でもすぐに真顔になって言った。
「あんた、次は命がないよ。わしはあんたみたいなのを今まで大勢見てきたからのう。もうこのあたりが潮時じゃ。引き際間違えんなよ」
いつも笑っている印象だった爺さん先生の目が眼鏡の奥で鋭く光った気がした。
「まあ、もうこの病院も今月限りじゃからあんたを助けることはできんがのう」
そう寂しげに笑ったのがもう会う事もなかった爺さん先生と俺との最後の会話になった。
それから閉め切っていたせいで悪臭のする一人暮らしの部屋に帰って、改めて自分の生活のだらしなさを思い知らされる。
“潮時か”
俺は久しぶりに父に電話した。
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