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「何の話してるの?」
「社長!」
「斑目は!」
この人は私の知らない斑目を知っている。
でもだからそれが何だっていうんだ。
黒子の一つや二つ、私の絵筆で書き足してやる。
斑目はきっと喜んでおでこにだってハートの黒子を描かせてくれるに違いない。
でも今私が知っているこの人が知らないことは、一つしか思いつかなかった。
「斑目はやかんで入れた麦茶が好きなんです……」
なんて馬鹿らしい。
なんてくだらない。
呆気に取られた結城さんの横を通り過ぎ、いつの間にか戻ってきていた斑目の前に立つ。
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
斑目は肩で笑いながら休憩所の隣を指差したけれど、私は階段を駆け下り、一階のお手洗いへと飛び込んだ。
もっとましなことを言えなかったのか、私。
「こんちくしょー!!」
何度もむきになって投げ入れようとしてはごみ箱に弾かれるティッシュを、私と掃除の人は早く入れと願いながら見ていた。
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