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持っていって良いのは、最低限の荷物だけ。 纏めてみると、成る程、小さな鞄一つで事足りた。 音を立てぬよう、階段を下りるが、雨風の音の方がよっぽど大きくて、余計な配慮のような気がしてならない。 『待ちくたびれましたよ。』 勝手口に向かいながら、行く場所だけ記した切符を手に、榊とかいう男との会話を反芻する。 『ルナの王座にようこそ。』 『ルナ?』 『そう、月の国。』 榊は真面目なのか冗談なのか、無表情で何も読み取れず、不気味だった。 だけど。 『実際は光っていないのに、光っているように見せてる狡い星。』 何故か、言っていることだけは、理解出来た。 明るみにされなかった俺の存在意義は、それか、と。 最後の欠片も殴り捨てて。 俺は、麻痺したココロとカラダで。 傘も持たず、小さなドアノブに手を掛けて。 「おにー…ちゃん?」 予想していなかった声に、肩を震わせた。
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