『恋心』

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会社の側の赤ちょうちん。 二人共作業着姿だ。 奥のテーブルには同じ作業服を着た見覚えのある四人組が焼き鳥をつまみながら熱燗を飲んでいる 良い時代だったんだと思う。 現場で働く人間が大事にされていた時代だ。 俺には親父が残した借金があったから贅沢は出来なかったけど、月に何度かはこうして安酒を飲む事が出来た。 「秀よぅ、お前、操ちゃんに浮気がバレた事ねぇか?」 茂がコップの冷や酒をグビリとやってから切り出した。 「浮気!? 俺しねぇもん」 「マジで!? 今まで一度もか!?」 「一度も無いよ…… おかしい?」 茂はひとしきりゲラゲラ笑った後でこう言った。 「確かに操ちゃんは今も可愛いけどよぅ。 例えばもっとおっぱぃが大きい女とシてみたい、とかよ? 明美なんか結婚した途端にブクブク太りやがって。腹と尻だけな? 乳は小さいまんまって詐欺だろ!? 詐欺!! 逆に、たまにはあばらが浮いた女を抱きたいとかよ? ねぇか?」 「ねぇ!!」 俺はビール一本で顔が真っ赤になるようなタイプだったけど、こういう場は嫌いではなかった。 特に茂との時間はなんだか楽しかったんだ。 茂と二人の時もあったし操と明美も交えて四人で飲む事もあった。 時には互いの社宅を行ったり来たりしながら家族ぐるみの付き合いが続いていたんだ。 茂はホントに遠慮の無い男だったよ。 でも全く悪気の無い事も分かってたからさ。 良く言うと素直? 悪く言うとバカ? まぁ、俺なんかが言うのもナンだけどね。 ただ、茂は俺と違ってハンサムだったからね。 .
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