序章「繰り返される悪夢]

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1 善と悪の狭間で  私は長年、繰り返し見る悪夢がある。それはいつも暗闇の中で、目覚める場面から始まるのだった。私がふと空を見上げると、薄っすらと月明かりが差し込んでいた。  私はそのお蔭で、少しずつ視界が闇に慣れてゆくのを感じた。暫くして私は、自分の置かれている状況を把握し、いつも通り急激な不安に襲われるのである。  私は、森と言うにはあまりにも弱々しい木々の中で立ち尽くしていた。私がどの方向に足を踏み出しても、がさがさと落ち葉が踏みつけられる音だけが辺りに空しく木霊すだけであった。  私がいつもその夢を見る時は、確かに肌寒さを感じるのだった。吐く息は白くて、季節は秋の終りと言うより既に冬に差し掛かっていると言った方がいいだろう。と、その時私の耳の金属音が飛び込んで来たのである。 『キンッ!』 『シャランッ!』  その音は私のすぐ傍から聞こえてくるものではなかった。幾分か遠方からのものだった。それは薄暗い木々の中での静寂のよって、遮られる事なく響き渡っているのだった。  気付くと、私は走り出していた。走らなければならないという想いで、ただ一心に走り出していた。私はこの悪夢の中で、必ずその想いに支配されてしまうのである。
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