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そして私は、いつも決まった場面に出くわすのである。
暫くして二人の人物が、私の前で闘っている姿が見えるのだった。その姿は月夜の光に照らされて、美しいシルエットとなってまるで舞っている様にも見えたのである。
一方の人物は、細身の刀鋭利な七つの棘状の突起物がついている奇妙な刀を手にしていた。もう一歩の人物は、今しがた相手にねじ伏せられその刀を首筋にあてがわれ、地面に突っ伏してしまっていたのだった。しかし、降参する意思はない様子でその者の手には、金色の錫杖が力強く握りしめられているのだった。
そして、その錫杖をよく見ると金色の鈴が八つぶら下がっている。ほんの少し前に聞こえたのは、刀とこの錫杖の鈴の音が木霊しているものだったのだ。
やがて私は、はっきりと慣れてきた眼で二人の容姿を視界に収める事が出来た。刀を持った男は、まるで血に染まったかの様な朱色の大きな数珠をその首にぶら下げている。大柄で顔には、数多くのしわと刀傷が刻み込まれていたのだった。
対する者の容姿はと言うと、月明かりのせいかも知れないが透き通る様な白い肌に、美しく端正な顔立ちの人物であるのがわかったのだった。だが今、その顔は苦痛と悔しさで一杯だった。
「そこにいるは、禁忌の域を超えた娘だな」
私の存在に気付いた大柄な男は、険しい表情のまま私に言い放ったのである。
「お前を還し、兄の力を封じなければならない」
そう。いつも私は、この夢の中でこの言葉をぶつけられるのだ。そして私はその後、涙を流してか細く震える事しか出来ないでいるのであった。私はその場から立ち去ろうと一歩後ずさると、何故か直ぐ後ろは崖になっていた。先までは私が走ってきた道が、そこに存在していた筈だったのだ。
「待てっ! 好きにはさせない!」
錫杖を持った男が、ゆっくりと立ち上がりながらもはっきりとした口調で言い放ったのだった。
「我ら『正す者』一族は、禁忌を破る者へは絶対の正義をもって罰してきた。『ヤクモ降ろし』が禁忌である事は、『伝道師』一族であるお前達兄妹なら、承知であろう。そして、禁忌を超えた者の末路も……」
正す者はゆっくりと異形の刀を月にかざした。次の瞬間、三人が立っている地面が激しく揺れ動きだしたのだった。
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