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事件、開幕
[連合国合同捜査局本部(北棟・二階)]
「ん?」
ファイルの山を持ってフロアを横切っていたニコルは、遠くからずんずんとやって来る同僚の姿にきょとんとした。
革ジャケットとカットソー、ジーンズをまとった長身からは既に殺気が漂っている。
「ニコライ、あんた帰ったばかりじゃ」
「ンあ?」
うっすら充血した銀灰色の瞳が鋭い光を放つ。
「呼び戻されたんだよ、あのおっさんに」
「……お気の毒様……」
せいぜい慰めの言葉をかけるしかできないニコルに右手を挙げて応え、その場を大股で立ち去るニコライは、騒がしいフロアの奥、突き当たりのガラス張りのドアをノックもなく開けて中へ入って行った。
「マロース、戻りましたが?」
語尾が強くなってしまったのは、仕方がない。
しかし。
「ニクラウス“プティ”マシューズが収容先から消えた。直ちにやつを追え」
「……」
労いも詫びもなく間髪入れずに飛んできたオーダーに、早速気が萎える。
このおっさ……もといバーミリオン部長の説明は実に端的だと、ニコライはいつも感心してならない。
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