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短い日が落ち夜になった頃
光也は家を出る。
最寄り駅からひとつ隣の駅に行き、改札をくぐる。
そんなに大きくない駅にはカフェと小さな本屋しかない。そのカフェの前を通りすぎ、少し歩けば目的地で、目的の建物から少し離れたガードレールに腰掛ける。
はぁ、だいぶ寒くなったな。
心の中で呟き、吐き出した白い息を眺める。
あ~ホットなドリンクが欲しいな。
「駅まで戻るか。」
呟いて携帯で時間を確認し、
「やっぱいっか。」
もうすぐ時間だし。
と、顔を緩めて携帯を上着のポケットに突っ込む。
「あれ?…光也君?」
聞こえた声に視線を向ければ、クラスメイトの南啓介が光也を見ている。
光也は内心で嫌がりながらも返した。
「お~南こんな時間に何してんの?」
「それはこっちのセリフだけどなぁ。」
ニヤついた南の顔が意味もなく苛立ちを煽るようで、
「は?どういうこと?俺は千太郎待ちだょ。」
少しとげのある言葉に南は苦笑したが、それよりも気になったことを聞く。
「藤君そこの塾なんだ?いつもなの?」
「そうだけど?」
訝しげに答えてくる光也に目を一瞬大きくし、
「…それって、藤君に怒られない?」
光也は黙って眉間にしわを寄せたまま、南を見上げる。
南が言いたいことが分かり、舌打ちをした。
光也の舌打ちに笑みを浮かべ、南は光也の前に行き中腰になる。
見上げる光也の頬を両手で伸ばす。
「ちょ…! 」
光也の声はそれ以上声にならず、南を睨む。
南は光也の視線に、更に笑顔を見せた。
「そんな顔しても、可愛いだけだって。」
頬っぺたをムニムニ動かしながら、
「あんな緩んだ顔で、人通りの少ないこの道で、こんな暗い時間に一人で居たら危ないでしょ?」
諭すような南の口調に苛立ちは増し、右足で脛を蹴る。
小さく声をあげ、一歩後退した南から解放された頬を撫でながら声を荒げる。
「あ?ふざけんな!!俺は女じゃねーの、何の問題もない!!
大体お前に関係ないだろ!?いっつも可愛いとか言いやがって、そのニヤけた顔も気に入らない。」
一気に捲し立て、肩で息をしながら南から顔を背けた。
南はため息をつき、勢いで立ち上がった光也を見下ろす。
「男だからって安全な世の中じゃないんだから。体格や力で敵わない相手だっている…」
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