大逃亡

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「けど、お前はそうした。俺を想って、春奈の一件で、身を引こうとしたんだろ?」 「それは…そうだけど」 それを言われて、何も言えなくなってしまった。 「お前に告られて、直ぐに答えなかったのは、お前が大切だからだ。大切な分、慎重になるし、深くも考える」 これは………。 これは、夢だろうか? 「悩みに悩みまくって答え出して、いざ返事をしようとしたら、馬鹿ザルは消えちまってるし、追いかけて来たら来たで、逃げ出しやがるし……ほんと、振り回されてばかりだ、お前に」 「なんだよ、それ…振り回されてんのは、俺の方だし」 月山薫から、信じられない言葉ばかり聞かされる。 「答え……出たんだろ?あんたの答え、聞かせろよ」 言いながら、ぎゅっと自身の掌を握る。 緊張の汗で、掌はベタベタだった。 「お前、覚悟あるか?」 逆に質問されて、真意を探るように月山薫の目を、ジッと見つめる。 「覚悟?」 聞き返した俺に、月山薫は、静かに頷いた。 「男同士なんて、周囲に祝福されるような恋じゃねえし、下手すりゃ、差別されたり、疎外される可能性だってある。家族だって、そうだ。きっと、誰も祝福なんてしねえだろ」
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