演劇

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軽く目をこすってから、台本に視線を落とし……そして再び目をこする。 少し涙が滲んで、うっすらとぼやける視界の中。 とにかく自分の役目を果たすために、精一杯練習に食らいついていくが……。 ……いかんせん。 気持ちの方はともかく、体の方が付いて行かない。 (……もう帰って寝たい) 「はぁ……」 そっと小さくため息をついてから、俺は既に何度目とも分からない台本の流し読みを行おうとした……直後。 とことこ、と、視界の外から自分の元へと歩み寄ってくる気配を感じた。 顔を上げると、今まで少し離れた位置で練習していたエルがすぐ目の前に立っていた。 「……エルちゃん、どうしたの?」 小首を傾げて尋ねた俺の顔を覗き込みながら、彼女は深紫の瞳に心配そうな色を浮かべ、 「アリシアちゃん……。その、やっぱり今日のお稽古はもう切り上げない、かな……?」 どこか自信なさげに、そんな話を切り出した。 ……彼女なりに何気なさを装ったつもりのようだったが、表情と雰囲気から俺の体の事を気にかけてくれているのは明白だった。 単純に、それは今の俺にとってありがたい申し出だったのだが、 「……で、でも、本番まで時間が…………」
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