第2話 学園のアイドル

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 すっかり桜も散り納め、若い葉を蓄え始めた校門前の木々の間を、静かな風が通り抜けました。  春も後半戦といったところでしょうか。勿論春に戦う意思などありませんが、人生は戦い、もしくは競争だと、よく大人は揶揄なさいますので、常に戦地に立つ思いで学園生活を謳歌するのもまた青春のひとつの在り方なのでしょう。  今日こそあの人に有効な一打を穿ってみせる。私なりの戦いに備え、爽やかな風の吹く中、今日の戦術を練りながら校門から校舎を目指します。  何か、ネタはないものか。私が冬馬先輩に頼らなければならないような、納得のいかない出来事でも転がっていやしないか。そんなことを考えながら歩いている割には、私は下なんて向かず、心地よい風を切るように背筋を伸ばして歩きました。  私の経験上、小さな謎というのは足元に転がってはいません。ほら、例えば初代学園長の銅像の前でしゃがみ込んでいるあの女の子の後ろ姿のように、前を向いていれば自然と目に入ってしまうものなのです。 「ふんふんふ~ん、ふんふふ~ん」  鼻歌を歌いながら、女の子は何やら作業を行っています。低い位置で結ばれたポニーテールが、女の子の動きに合わせてリズミカルに揺れ動く。どこか見覚えのあるその後ろ姿に、私は引っ掛かりを感じました。
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