鎖に繋がれたのは、果たしてどちらか。

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鎖に繋がれたのは、果たしてどちらか。

記憶に根付く彼はいつだって笑顔だった。生まれてこの方友人関係には苦労したことがないとでも言いそうな程、爽やかな笑顔が印象的で、非の打ち所ない綺麗な笑顔が、捻くれ者の私にとって逆に気持ち悪いものでしかなかったから、よく覚えている。 笑顔が綺麗な人間は当たり前だが周囲に好かれる。ま、それは笑顔の種類にもよるのだが、基本笑うという行為に不快感を覚える人間はそうそういないだろう。私はその少人数派なのだがそれとこれとは別の位置にある気がして考えるをやめた。 えーと、なんだっけ。あ、そうそう、彼の話だ。物事を語るとき、すぐ脱線してしまうのが私の悪い癖だった。直さなきゃなぁと思いはするものの実行した試しがないので、きっとこの先もずっとこの調子なのだろう。冗談だけど。 結論から言えば私は彼のことが嫌いだった。私を除いたクラスの全員が彼のことを好きだったみたいだけど私は彼のことが嫌いで仕方がなかった。いや、そもそも嫌いなんて積極的な言葉は使いたくない。言い換えるならそうだ私は彼にムカついていたのだ。 そうなるとかつての私が彼を毛嫌いしていた理由も簡単に見付かる。でも、蓋をした。彼との接点を避け続けていた理由を思い返したところで時間は戻ってこないし、彼を嫌っていた私も戻ってこない。そして、笑顔が素敵でクラスの人気者だった彼も、また戻ってくることはないのだ。 「あ、起きた?」 優しい手つきで私の髪を撫でながら顔を覗き込む彼━━宮村優斗(みやむらゆうと)は笑顔だった。少なくとも私の目には笑顔に映ったのだが、実のところその目は笑っていない。笑顔の形を模した人形のような不気味さを宮村くんは放っているが本人には丸っきりその自覚がないらしい。そもそも寝てないし。ただ目を閉じてただけだし、と思いながら私は、んと短い肯定を示した。
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