食堂

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  そんなボクに、子犬くんが口を開いたとき。 ザワリと食堂の空気が揺れた。 入り口付近から広がったそれは、さざ波のように食堂全体へと広がっていく。 恋情、歓喜、興奮、嫌悪、悲しみ、軽蔑……。 様々な感情が、食堂の異様な雰囲気に呑み込まれ、そして増幅する。 「っ…………」 ああ、変わってない。 あの頃と、同じだ。 ボクはよく知る懐かしいこの雰囲気に、ギリっと奥歯を噛み締めた。 あからさまに変わった食堂の雰囲気に、三人が身を強張らせたのがわかった。 だけどボクは、なにも気づいていない風を装って、ゼリーを一口口のなかに流し込んだ。 「……よーちゃん」 「うん」 チャラ男と子犬くんがアイコンタクトをとったとき。 元気のいい声が、食堂に響き渡った。 「やったー!オレいっちばーん!!」 「えー、僕の方が早かったよ」 「ううん、僕の方が早かったよ」 「マナブもツトムもなに言ってるんだよ!オレが一番に決まってるだろ!なあ、ツカサ!」 「ん」 「ほらな、オレが一番だ!」 普通の会話には不適切なほど大きなその声。 懐かしい不快感に、まるで握りつぶされているかのように、胃がキリキリと痛んだ。 だけど今はそれどころじゃない。 ボクはゼリーを口に運びながら、次に来るであろう衝撃に備えて、こっそりと身構えた。 そして、 「キャーーー!!」 「学さまぁぁあああ!!!」 「勉さまぁぁあああ!!!」 「司さまぁぁあああ!!!」 食堂のあちこちから、黄色い悲鳴や低い雄叫びが上がる。  
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