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吉田弟の悪徳な悪戯の所為で
凍りついた場の雰囲気は
やはり、今日の主役によって
融(ト)かされていく。
「私が彼女を、あゆみさんを想う気持ちは変わりません」
深閑の中に凛然な音。
あたしの何処かがピシリと軋んだ。
「祐介君にはどうも嫌われているようですが、私にもよく分かります……
もし、妹に変な男が言い寄ってきたら
兄として慷概(コウガイ)すると思いますから」
志伸さんはそれを口にしながら
あたしの方をゆっくりと見た。
まるで、それは
あたしを確かめるように
あたしに問いかけるように
きっと、あたしの中で何かが呼び覚まされたであろう事も感受したかもしれない。
彼の父譲りのホリの深い顔に似合う
薄く、妖しい笑みが彩られた。
いつの間にか、黒いビロードの巻かれた
左手首をギュウ、と握っていて
瞬間に浮かんだマスター三神
闇の色を巻きつけ、結びながら
束縛の呪文を唱え
最後に、手の甲に唇を寄せた
彼の、目映い姿。
いつもこの行為を施す彼を
中世の騎士のようだと感じてしまう。
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