27

11/23
1567人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
その日はどうしても三神センセーのマンションへ 帰る事が出来ずにいて 「ただいまー」 玄関に入ると 直ぐにお母さんが迎えてくれた。 リビングには無事退院を果たした志伸さん。 あたしが、顔を出すと同時に こっちを振り返る。 「おにいちゃん、退院おめでとう」 「ありがとう、華ちゃん」 結局、精査でも何ひとつ不具合がみつからず もちろん、それが一番大事で喜ばしい事 記憶喪失については、経過観察で 社会復帰となった志伸さんは 暫く実家に住まう事になった。 おとうさんは昨日、あたしにもそう言ったんだ。 ‘華ちゃんの時間のある時はなるべく戻ってきてほしいんだ’ おとうさんは、志伸さんがあたしを「華ちゃん」と 呼ぶ度に、悲しそうな顔をしていた。 「はい、おにいちゃんの好きなイハチのトライフル」 今も多分好物の筈のケーキを手土産に渡すと それを嬉しそうに受け取りながら 「マジでー?有り難う、華ちゃんっ」 志伸さんの掌があたしの頭を撫でた。 そして 頬を滑り落ちてゆく。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!