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その日はどうしても三神センセーのマンションへ
帰る事が出来ずにいて
「ただいまー」
玄関に入ると
直ぐにお母さんが迎えてくれた。
リビングには無事退院を果たした志伸さん。
あたしが、顔を出すと同時に
こっちを振り返る。
「おにいちゃん、退院おめでとう」
「ありがとう、華ちゃん」
結局、精査でも何ひとつ不具合がみつからず
もちろん、それが一番大事で喜ばしい事
記憶喪失については、経過観察で
社会復帰となった志伸さんは
暫く実家に住まう事になった。
おとうさんは昨日、あたしにもそう言ったんだ。
‘華ちゃんの時間のある時はなるべく戻ってきてほしいんだ’
おとうさんは、志伸さんがあたしを「華ちゃん」と
呼ぶ度に、悲しそうな顔をしていた。
「はい、おにいちゃんの好きなイハチのトライフル」
今も多分好物の筈のケーキを手土産に渡すと
それを嬉しそうに受け取りながら
「マジでー?有り難う、華ちゃんっ」
志伸さんの掌があたしの頭を撫でた。
そして
頬を滑り落ちてゆく。
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