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ホテルの正面に車をつけた千春さんは
いつものようにこちらには顔を向けずに言う。
「社長、では、明日の9時にお部屋へ伺います」
「うん、宜しく」
いくよ、ミカ。
あたしの手を取って車から出ると
ホテルマンにありがと、とナチュラルに挨拶をして
そこに入った。
もう深夜12時近くだっていうのに
やっぱり、並んでいて。
道路と、劇場と、道路を挟んで聳えたつ
この間とは、反対側の老舗ホテルで
仰々しいばかりの出迎えを受けてエレベーターへ乗り込んだ。
「なんの、パーティーなんですか?」
「うん、うちの社のね、お披露目会みたいなもん」
「……会社の事に、あたしごときが出てもいいんですか?」
チラリと瞳だけを、聖さんに向ける。
この人は、たった今さっきあたしを、華、と呼んだ。
聞いてみたい事はたくさんあるのかもしれない。
さっきの電話から聞こえてきた音に
どうしても、心を乱されて、ならない。
……なんでだ。
電話を通しての音だし
微かな音だし
その音に乗って、囁かれた重低音での‘華’という響きは
確実にあたしのどこかをねじ曲げた。
……三神センセー、あなたは本当に
あたしをどこまで、苦しめるんですか……
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