~秋の過去~

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1時間経っても、2時間経っても、秋は帰って来なかった。心配になった上原は、後藤に電話を掛ける。 「会長、秋が自宅に荷物を取りに行ったきり帰って来ないの!何かあったんじゃないかと思って・・藤も寝てて動けないの・・お願い秋の様子を見て来て!」 普段冷静さを失わない上原が、取り乱しながら後藤に言うと、後藤は深夜2時を回っているにも関わらず二つ返事で飛び出してくれた。 それから1時間後・・・・。 後藤に支えられながら秋が上原の自宅に帰って来ると、上原は秋の姿に言葉をなくす。上に後藤の服を羽織ってはいたが、中に見える破られた服、手首に残された赤い痣。左頬は赤く腫れ上がっている。そして虚ろなどこを見ているか分からない秋の瞳。何があったのかなど、聞かなくても分かった。 「・・・誰?」 上原は秋を強く抱き寄せる。秋は上原の腕の中で声を押し殺して泣いた。 「誰がやったの!?言いなさい!」 上原は怒りで気持ちを抑える事が出来なかった。後藤はそんな上原の肩に手を置くと、黙って首を振る。 「藤崎・・藤崎の父が・・」 秋が震える声を上げ告げた名前に、上原も後藤も愕然とする。 「藤を・・雪の息子を・・渡せって・・」 途切れ途切れの言葉は、上原の胸を締め上げる様に痛くする。そして、藤崎大河の卑劣な行為に吐き気がした。 「秋、とても辛い事を言うわよ?今から病院に行くの」 後藤が驚いて上原を見る。 「ちょっと、何もこんな時に・・」 「・・行く・・」 秋は上原にしがみつきながら、それでもハッキリと口にした。 「あの人・・藤が欲しいの・・もし裁判にでもなったら、ある事ない事言われてる今の状況じゃ負けるかもしれない・・でも、この事実があれば・・藤を取られずに済む。それに・・処方して欲しい物がある・・」 上原は自分が全てを口にしなくてもきちんとその意味を理解してくれる愛弟子の頭の回転の早さに、熱くなる目頭を押さえる。後藤をその場に残し、上原は秋をそのままの姿で病院に連れて行った。 後日、上原と後藤は物的証拠を持って藤崎大河の元を訪ねた。 「貴方が秋にした事の証拠は揃ってます。秋の息子は絶対に渡しません」 上原の言葉に大河がククッと笑う。 「何の話かと思えば・・向こうから誘っておいて酷い言い草だ」 「秋が誘ったですって!?あれはレイプです!」 努めて冷静さを保っていた上原が、我慢出来ずに声を荒げる。 「診断書にもはっきりと書かれています。お渡しする事は出来ませんがね!」 「おや、私だけでは物足りなくて別の所で男漁りでもしてたんですかねぇ?そこで痛い目をみたからといって全てこちらの責任だと言われても・・」 「そこまでしらばっくれるつもりなら、貴方のDNAを提供して頂きますよ?秋の体内から取れたDNAが何人分あるんでしょうね?」 静かに睨み合う上原と大河だったが、先に視線を外したのは大河の方だった。 「私はね、藤が心配なんですよ・・何と言ってもたった1人の孫ですから・・そうですね、ご理解頂けないのなら・・何度もお願いに上がるしかないですねぇ、秋さんに」 上原の背筋に冷たいものが走った。 (この男はまた秋に・・) 「秋には二度と会わせません」 ワナワナと震える手でテーブルの上の書類を拾うと、上原と後藤はその場を後にした。 「あいつ・・また秋を襲うつもりなのよ」 帰りの車の中、上原は悔しさで滲む涙を拭きながら後藤に話す。 「こんなに注目されている中で警察沙汰になんてなったら、今度こそ秋は壊れてしまう・・こっちが被害届けを出せないのを分かった上での行動なのよ、何て卑怯な奴なの!!」 「話の通じる相手じゃないし、秋ちゃんをどこかに隠しておけないかしら・・」 後藤の言葉に、上原はハッとする。 「会長!それだわ!」 上原はこの時、秋を女性専用のシェルターに隠す事を思いついていた。
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