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「自分でするから『自己』紹介っていうんだ」との川本の呟きに、店員は、あからさまに不機嫌な顔になった。
伊織が質問を続ける。
「その『ビュー』はさ、店ではうまくやってた? 客とトラブってたとかは?」
「別にないっす。ちょっと鈍くさかったけど。真面目だし。人当たりも悪くないしさ。何だっけ。タイ? の人って、そんな感じじゃん」
黒縁眼鏡の店員の言葉に、伊織のみ、数回頷く。
「ここ、監視カメラは?」
川本が、これまたつっけんどんに店員に尋ねた。
「別にぃ? コンビニとかじゃなですし」
店員が仏頂面して言い返す。
伊織が、とりあえず割って入った。
「ほら、そうはいっても。このチェーン、二十四時間営業でしょ、物騒じゃないの?」
店員は伊織の方をちらりと見やると、少しばかり態度を取り繕って、こう答えた。
「ここいら民家も多いし。客筋は悪くないんっすよ。夜もそんな客こないし。本社の方針で終夜営業だけど。深夜は、店に店長だけってことも多いし。ってか、ビューの奴。どうかしたんすか?」
「……店長、呼んでもらえる?」
店員の質問を完全に無視して、川本が言った。
「店長、てんちょー」不満げな声を上げながら、黒縁眼鏡は、店の奥へと入っていく。
「何か、警察の人が来てるっすー」
入れ替わりに姿を現した店長が、怪訝な顔で、伊織と川本の顔を見つめる。
伊織はバッジを取り出すと、店長の目の前で広げてみせた。
「新宿中央署の幸村です」
川本が続ける。
「同じく、川本です」
*
弁当屋の脇にはブロック塀があり、店の建物との隙間には古いプランターや段ボールが雑然と置かれている。日当たりが悪く、ぬかるみには足跡が多数残っていた。
伊織と川本は弁当屋の店長を連れだし、人目を避けるようにして、店と塀の隙間に入る。
川本が写真を見せると、店長は頷いて見せた。
「ビューです。うちのバイトです。今日も四時半からシフトで」
「ああ、今日のシフトはちょーっと難しいかも」
伊織が口を挟むと、店長が表情を険しくした。
「……えっと、あの、ビューは別にビザも問題ないし、短時間就労だし。ぜんぜん違法じゃないですよね?」
「スリヤ・チャイルンルアンさんは、今朝、死体で発見されました」
川本がこう続けると、店長は芝居がかって、お約束の驚きの声を上げた。
「……ええ?! まさか、そんな」
そこで、伊織がすかさず訊ねる。
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