Scene4

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「自分でするから『自己』紹介っていうんだ」との川本の呟きに、店員は、あからさまに不機嫌な顔になった。 伊織が質問を続ける。 「その『ビュー』はさ、店ではうまくやってた? 客とトラブってたとかは?」 「別にないっす。ちょっと鈍くさかったけど。真面目だし。人当たりも悪くないしさ。何だっけ。タイ? の人って、そんな感じじゃん」 黒縁眼鏡の店員の言葉に、伊織のみ、数回頷く。 「ここ、監視カメラは?」 川本が、これまたつっけんどんに店員に尋ねた。 「別にぃ? コンビニとかじゃなですし」 店員が仏頂面して言い返す。 伊織が、とりあえず割って入った。 「ほら、そうはいっても。このチェーン、二十四時間営業でしょ、物騒じゃないの?」 店員は伊織の方をちらりと見やると、少しばかり態度を取り繕って、こう答えた。 「ここいら民家も多いし。客筋は悪くないんっすよ。夜もそんな客こないし。本社の方針で終夜営業だけど。深夜は、店に店長だけってことも多いし。ってか、ビューの奴。どうかしたんすか?」 「……店長、呼んでもらえる?」 店員の質問を完全に無視して、川本が言った。 「店長、てんちょー」不満げな声を上げながら、黒縁眼鏡は、店の奥へと入っていく。 「何か、警察の人が来てるっすー」 入れ替わりに姿を現した店長が、怪訝な顔で、伊織と川本の顔を見つめる。 伊織はバッジを取り出すと、店長の目の前で広げてみせた。 「新宿中央署の幸村です」 川本が続ける。 「同じく、川本です」    * 弁当屋の脇にはブロック塀があり、店の建物との隙間には古いプランターや段ボールが雑然と置かれている。日当たりが悪く、ぬかるみには足跡が多数残っていた。 伊織と川本は弁当屋の店長を連れだし、人目を避けるようにして、店と塀の隙間に入る。 川本が写真を見せると、店長は頷いて見せた。 「ビューです。うちのバイトです。今日も四時半からシフトで」 「ああ、今日のシフトはちょーっと難しいかも」 伊織が口を挟むと、店長が表情を険しくした。 「……えっと、あの、ビューは別にビザも問題ないし、短時間就労だし。ぜんぜん違法じゃないですよね?」 「スリヤ・チャイルンルアンさんは、今朝、死体で発見されました」 川本がこう続けると、店長は芝居がかって、お約束の驚きの声を上げた。 「……ええ?! まさか、そんな」 そこで、伊織がすかさず訊ねる。
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