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おかしいな、とは思ったけれど、そのときはまだ、なぜそんな嘘をついたのかよく分からなかった。けれど大学受験を向えたとき、未来は偏差値が足りないくせに俺と同じ大学を受験して、そのときもまた体調を崩したことで、その理由がやっとわかった。
受験後に未来の母親からこっそり聞いたところによると、未来は受験前から緊張で何も食べられなくなり発表の日が来るまで、毎日お粥だけやっとのことで食べていたとのこと、発表の日はパソコンの前で嬉しくて倒れてしまい、『これで陽太と同じとこ行ける』とずっとうわ言でいっていた、ということらしかった。
それを知ってから、俺の中で、未来の立ち位置が変化した。
未来がどんなに我儘を言っても、俺は別にそれを嫌だと思ったことはない。それよりも、言われるたびになんだかくすぐったくて、可愛くなる。必死になって束縛してこようとすると、こっちだって身体の奥が高揚する。
今も、未来はちょっと心配そうな顔でこちらを見上げてきている。額の真ん中にきゅっと小さな皺をよせて、口元は何か言いたげに開きかけたままで。未来は不安なときにいつもこんな表情をする。かるく尖らせた唇は、触れてもらうことをねだっているようで目が離せない。そんな顔をされると、こっちもそろそろ我慢の限界がきそうになる。
けれど未来はそのことを、きっと全然わかってない。
「……やっぱりちょっと、顔だけみせて謝ってくるよ」
上着は諦めて、俺は立ち上がった。振り切るようにして玄関まで急ぐ。その後を、未来は慌てて追いかけてきた。
「陽太のうそつきっ」
「なんでだよ」
「合コンは行かずに、おれとパズドラするって言ってくれたじゃん」
スニーカーに足を突っ込むと、背中にグーパンチを喰わされた。
「そんなに女の子がいいのかよ。おれとパズドラするよりそっちのほうがいのかよ」
「……あのなあ」
振り向くと、未来はスマホを握りしめて涙目になっていた。
――そこまでして。
まだ強がんのかよ。
胸の奥から、やるせない感情がわきおこる。
「未来」
名前を呼べば、ひくりと肩を震わせた。
「お前さあ」
「……なんだよ」
俺は、首を傾げるようにして、自分より若干背のひくい相手を見下ろした。
「そんなに、俺とパズドラしたいの?」
「――え?」
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