取らぬタヌキの皮算用

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部屋に入ったふたりを、どうやって観察するか。 もちろん、それは、小型カメラしかない。 細々した道具を、笹本くんに渡すよう山内氏に頼んで、その中のひとつにわからないよう、カメラを潜ませておくのだ。 音声だけでもよし。 映像が取れればなお、よし。 しかし、実際にそのカメラから聞こえ、そして映ったのは、床に倒れている笹本くんの姿だった。 その瞬間、私と相澤さんは、計画に時間をかけすぎたことを悟った。 それからの山内くんの対応は早かった。 救急車を呼び、病院に同行。 われわれも、(おおいに反省しながら)後を追った。 笹本くんは、基本的な処置が終わると、大部屋に移された。 これは幸運なことだった。 カメラは笹本くんの部屋である。 一度始めた観察は、最後までやり遂げねば! その研究者魂のみが、私たちを突き動かした。 しかし、推測は推測で終わる。 現実は、いつも、厳しい。 なにか、笹本くんがしゃべった!とおもって様子をうかがうと、次の瞬間、山内氏にビンタをくらわせていた。 ああ、甘いかんじじゃないのか。 落胆。 そして、疲れが襲った。 「相澤さん、帰ろう」 相澤さんは、静かに頷いた。 彼女も同じ気持ちだったのだ。 研究はまだ途上である。 今回は一先ず引き上げだ。 我々は、病室を後にした。 (2.冬の巻へつづく)
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