第1章

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 凄まじい悪臭、獣臭がする。  周りを見渡せば熊、熊、熊。私は熊に囲まれていた。  ここはどこだろうか? 北海道? アラスカ? あるいはどこにでもあるような田舎か?  更に注意深く周りを見渡す。  そびえ立つ壁が目に映った。  嫌な予感がする……。  まさか、私は動物園の熊の飼育場所に落とされたのか?   だが、熊は私を襲う様子は微塵も見せない、それどころか私のことなどまるで気にする様子もない。  私はそれら全てになぜか、どこか心地良さに似たものを感じた。  そういえば、私の家はどこにあるのだろうか。そして私の名前は何なのだろうか。  記憶に紗がかかっていて、思い出そうとしてもうまく思い出せない。記憶喪失なのだろうか?   頭を何度も横に強く振り、記憶を呼び起こそうとするが、その行為は無駄な努力に終わった。  ふと、自分の腕が目に入った。  毛が生えている。黒々とした毛が。剛毛だ。いつの間に私はこんなに毛深くなったのだろうか。  まさか……な。  自分の腕を注意深く何度も観察する。  鋭い爪が生えた力強い手。そして足。  そ、そんな……。こ、これじゃあまるで私は熊みたいじゃないか。  絶対にありえない。そう思い、私は自分の姿を確認できる場所を探した。  鏡は発見できなかった。しかし、水飲み場があるのを私は見つけ、急いでその場所へと向かう。  自分の姿を水に映し出す。  ああこれは完全に熊だ。完全にツキノワグマだ……。
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