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夕方になると、神社のちょうちんに灯がともされた。
満開の桜を闇に白く浮きあがらせる。
夢のように美しいというのは、こういうことを言うのだろう。
夜祭といっても、ここのは神聖なやつだから、出店なんかは一つもない。
咲きほこる桜は超然として、どこまでも、おごそかに美しい。
神様だけのために咲いている誇りをもっているかのようだ。
この桜の咲きほこる境内に、祭ばやしの笛の音がひびく。
そろいのハッピをきた青年団のみんなが演奏している。
社の前や、まわりには、村人がおそらく動ける者は全員、集まってきている。
あぶれた人たちは石段の両脇に立ちならんでいた。
待ちわびる村人たちのなか、石段の下のほうで、わあッと歓声があがった。
巫子が到着したのだ。
げんみつには巫子こうほの、あずささん。
今夜、神様との婚姻が成功すれば、晴れて新しい巫子となる。
水魚さんの先導で、やってくる姿が、けいだいで待つ僕の目にも入ってきた。
白むくの着物に緋ばかま。
朱色に金糸で、ししゅうの入った、ごうかけんらんな内かけ。
金のカンムリ。
平安のお姫さまみたいな、すごい衣装をまとって、喜色満面だ。
背が高いから迫力があって、こういうときは、たしかに目を引くね。
おお、きれいな花嫁さんだと、見物人から声がもれる。
しかし……そりゃね。
あずささんもキレイだけど、これが、もし蘭さんだったなら、歓声はこんなもんじゃなかったよ。
あの衣装なら体形はかくれるし、ほぼ女装で、リアル天女だよねえ。
あの白い肌に、おしろい、はたいて、紅ひいて……絶世の女形だ。
う、美しすぎる。
僕は妄想だけで、クラクラきてしまった。
蘭さんを巫子にしたいっていう水魚さんの気持ちも、まあ、わからないじゃない。
だけど、巫子になったら、この村から出れないし、なんか変な研究と関係あるような屋敷に、僕らの大事な蘭さんをあずけられないよ。
それにしても、やっぱり巫子は、ちゃんと、あずささんなんだ。
蘭さんにするつもりなんじゃないかってのは、僕らの思いすごしだったのか……。
まあ、それを確認するつもりもあって、こうして僕は祭見物に来ている。
早めに来たんで、場所は最高。
社のなかまで、バッチリ見れる最前列がとれた。
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