エピローグ

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『では、わざとですか』 『結局、雪穂が頼りにする存在を蒼馬の長男に押し付けてしまっただけなのかもしれませんが……。 気付いて引き止めてみたものの、手遅れでした。 娘とそっくりで、頑固で意地っ張りで……困ったものです。 将来を心配して娘の結婚には反対しましたが、娘や孫を憎んだことなど一度もありません。 初めてあの子の手を引いてうちに連れて帰った時、どんなに嬉しかったことか……。 たった1人の孫を愛おしく思わないわけがないでしょう。雪穂は私の自慢の孫ですよ』 視界が歪んで顔を上げられなくなった。 嗚咽を零したらおばあちゃんの苦労を水の泡にしてしまう気がして、フラフラと歩き出すと、右手を引かれた。 誰もいない病室に引き込まれてミナトの胸に突っ伏した。 もう我慢できなくなって声をあげて泣いた。 自分の浅はかさを思い知り、深い愛情に胸を打たれ、同時に思い出した。 両親が亡くなり、不安でたまらなかったあの日、おばあちゃんに手を引かれてあぜ道を歩いたことを。 夕日がキレイだね、と言っておばあちゃんを見上げると、目を細めて微笑んでくれたことを。 おばあちゃんの笑顔を見たのは、それが最初で最後だった。 おばあちゃんが殺された時、自分を責めずにはいられなかった。 余命はわずかかもしれないけど、まだ時間がある。 そう油断して、一番伝えたかったことを伝えられなかった。 明日がある保証なんてどこにもなかったのに……。
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