第1章

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一晩だけ長屋に泊まった田邊さまでしたが、私がここに来る翌朝には発つ準備をしているところでした。 「もう戻られるのですか?」 私が聞くと、田邊さまはひとつ頷いて立ち上がりました。 「早く帰らないと、きっとやらなきゃならないことが山積みだから。おふみさん、だったね。世話になった。杉浦さまも息災で」 旦那さまがあくびをしながら、のっそりと見送りに出て来ました。 「これからは刀は流行らない。学ぶことがお前の正業になるだろう。必要があれば力を貸すが、多分その機会はないはずだ。この先はお前達の時代だ」 旦那さまの言うことは、私にはあまりわかりませんでしたが、不思議と胸が温かくなるようでした。 田邊さまがまっすぐに背筋を伸ばして歩いていく姿は、何とも明るく頼もしく私の心に残りました。 【完】
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