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犯人は激しく抵抗したが、力では務にかなわなかった。
犯人の男は、脂ぎった中年の男だった。
警察内で取り調べが始まった。
男は、勤務していた会社で問題を起こし懲戒免職になって、貯金もなく、あっという間に生活に困り犯罪に手を染めてしまったのだ。
しかし、この男はこれまでには犯罪に手を染めたことはなかったとかたくなに言い放った。
しかし、それにしてはあまりにも殺し方が残忍だった。
相手が強く抵抗してきたので、ついめった刺しにしてしまったという。
いや、そうだろうか。
数々の凶悪事件に遭遇してきた務には、犯人は顔を見られたために。完全に相手の息の根を止めずにはいられなかったのだとしか思えなかった。
務は、念のため犯人のDNA
を鑑識に回して過去の犯罪歴の有無を照合した。
一週間後、鑑識課からの結果を見て務は一瞬にして凍りついた。
その男のDNAは、務の母親を殺した犯人が唯一残していったDNAと、99.9999999%の確率で一致していたのだ。
体の震えを押さえて、務は静かに犯人の男に話しかけた。
「お前、二五年前に誰かを殺してないか?」
「えっ!」
男はびくっと肩を上げて、怯えた目で務を見つめた。
「二五年前に起きた、強盗殺人事件の犯人のDNAとお前のDNAがピッタリ一致したんだよ。」
男は、務から目をそらし、明らかに狼狽した様子で落ち着きを失っていた。
「やっと見つけた。
十八年かかったよ、母親殺しの犯人さんよ。
あのあと、俺達兄弟はしたくもない苦労を強いられた。 」
その言葉を聴くと、男はぶるぶると震えだした。
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