第1章

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晴れて刑事登用資格を勝ち取った務だったが、ここで彼は思いがけずつまずくことになった。 刑事職は、所轄の部署に空きがない場合は、身分保留のまま現在の職務を続けるしかない。 たまたま空きがなかったのは運が悪かった。 務は、そのまま現職を続けてひたすら空席ができるのを待った。 ようやく一年半後に所轄の部署に空きができて、務はとうとう刑事になった。 刑事。 俗にデカとも呼ばれる。 デカという呼び名は、決して彼らの態度がデカいからではなく、明治時代に私服の刑事の上着の袖が角袖であったことから、犯罪者側の人間が刑事のことを「かくそで」と呼んでいたのを、その後彼らが文字を並び替えて裏社会で、 「かくそで」→「そでかく」→「くそでか」→デカとなったといわれている。 務が刑事になることを決心して施設を出てから、すでに五年の月日が流れていた。 これからが本当の勝負だ。 殺人事件は、法律改正で時効制度がなくなり、死亡しない限りは犯人の逃げ得はなくなった。 一生かけても母親を殺した犯人をあげてやる。 務は秘かに自分の心に強く誓った。 その後、務は数々の事件を解決に導いたが、なかなか母親を殺した犯人につながる情報は得られずにいた。 全国の犯罪者に関する情報収集にも精力的に取り組んだが、母親殺しの犯人の行方は杳(よう)として知れなかった。 刑事になって十八年が過ぎた。 時効制度が廃止されたとはいえ、刑事を辞めれば犯人探しは困難を極める。 なんとしても現役の内に犯人を捕まえたいと、務はいっそうその覚悟を強くした。 その年の冬、務の所轄の警察署管内で一つの殺人事件が発生した。 若いサラリーマンが、現金300万円の入ったスーツケースを奪われて、めった刺しにされて殺された。 強盗殺人事件である。 暗がりの道端で襲われたが、近くのマンションの防犯カメラが犯行の一部始終を録画していた。 画像を解析して、写真付きで指名手配のビラを県内にばらまいた。 すぐに情報が入った。 務は逮捕礼状を手にすると、犯人らしき人物が住んでいるとの情報が入ったアパートの部屋に踏み込んだ。 そして間一髪、高跳びをしようと準備をしていた犯人を逮捕した。
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