第1章

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「図星のようだな。」 務は、男を睨んだ。 2038年のDNAの判定は、全世界の人間から容易にたった一人を特定できる極めて優れたものになっていた。 間違いはあり得ない。 犯人の男もその事はよく知っていた。 「お前がやったんだな、屋代。」 屋代と呼ばれた男はがっくりとうなだれた。 「否定しないということはやったんだな。」 屋代はうなだれたまま、静かにうなずいた。 証拠が上がり、自白も取れて屋代の犯行は確実になった。 これから調書を取って、検察に犯人の犯した犯罪に関するすべての書類を送って立件して裁判にかけることになる。 それまで、屋代は拘置所に拘留される。 二ヶ月後に屋代の裁判員裁判が行われた。 法廷での裁判が始まった。 検察側は死刑を求刑してきた。 弁護人側は、被告の生育歴や生活苦が犯罪を引き起こした主な原因であり、本人は深く反省しており更正の余地があるとして、無期懲役を主張してきた。 ついに、裁判長が判決を言い渡す時刻がやってきた。 「主文。 被告人屋代行夫を死刑に処する。」 屋代ははがっくりと首を落としたまま身じろぎもしなかった。 そのあと、裁判長が死刑判決に至った理由を述べた。 「被告人が生活苦に陥った理由は、最初の犯行時は、学生の身分でありながらギャンブルで多額の借金を作って、その支払のために行った極めて自分勝手な犯行であり、二度目の場合は、ファッションヘルスに通いつめた結果、消費者金融に返済不可能な額の借金を作り、会社の金を横領しようとして発覚し、懲戒免職 に至った末に強盗目的で犯行に至ったもので、これもまた極めて自己中心的な動機による非道な犯行であり、今後改心して社会人として復帰できる可能性は極めて低い。 よって、被告人を死刑に処することはやむを得ない。」 裁判長の判決文は、このように述べられた。 「これにて閉廷いたします。」 裁判長の宣言により、裁判は終わった。 犯人の屋代は、これから拘置所で死刑になる日まで暮らすことになる。 兄弟二人の仇討ちは、法のもとに完遂した。 「終わりましたね、本牧裁判長。」 臨席していた若い判事が、法廷から出ていく裁判長を見て言った。
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