激情

2/11
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
ぱらぱらと窓を叩いていた雨の音が、いつの間にか静かになったことに気づいた。 うっすらと曇ったガラスを指で()でると、きゅっきゅっと小さな音がする。 外は、雪になっていた。 港の見えるこの高層ホテルは、彼が私の誕生日を祝うために予約してくれた。 クリスマスを過ぎると、このホテルもあまり混まなくなるらしい。 「千尋(ちひろ)が28日生まれで、助かった」 そう言っていたずらっぽく笑った彼は、6年前に私が入社した時の指導係だった。 岩瀬悠一朗(いわせゆういちろう)、5期上のその先輩は笑顔の優しい人だ。 私がようやく仕事に慣れたころ彼は転勤し、そして去年、私の上司として本社に帰ってきた。 5年の月日は彼を既婚者に、そして優しい父親に変えていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!