prologue・終わりで始まりの日

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「痛っ…!」 左手の中指に鮮やかな赤が滲む。 「あーあ、やっちゃった。 ださ……」 私は包丁と飾切の途中だったニンジンをまな板に放り出して左手を口元に運んだ。 中指をそっと口に含んだら、切り傷の痛みより口内に広がる不快な苦さに顔が歪む。 「早くしないと間に合わないのに…」 指を咥えたまま救急箱を漁る。防水タイプの絆創膏を見つけてそれをきつめに巻いた。 幸い傷口は浅く、ガーゼ部分を半分ほど赤く染めただけで血は止まったようだ。 「よし」 私は気合を入れなおしてもう一度丸いニンジンを手に取った。 すでに花びら三枚までは出来ている。 あと少しでオレンジ色の可愛いお花の完成だ。 ニンジンの花なんて型抜きすれば簡単に作れる。 でも、それじゃダメなんだ。 今日は心を込めて全てに手をかけてやりたい。 だから必死に包丁を操った。 これが完成したら飛び切り甘いシロップ煮にして、すでに出来上がっているキャロットケーキに添えてやろう。 淡いオレンジ色のケーキに鮮やかなオレンジのお花。 あいつは可愛いものに目がないから、見た目にも拘って美しく盛り付けてあげるんだ。 【かこ姉特製 スペシャルニンジンプレート】 みゆは喜んでくれるだろうか?
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