<1>疑惑

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 春休みを間近に控えた、ミッション系の名門私立幼稚園。  午後二時は年中組の降園時刻。てっぺんに十字架をいただいた神々しい門の前には、大事な子供を迎えに来た保護者の車が行儀よく並んでいた。  車の列の中に、乗り慣れたL***の運転席でふんぞり返って娘を待つ、美麗の姿があった。  決して、わざとふんぞり返ってエラそうにしているわけではない。出産が終わっても体重がもとに戻らず、その後は運動不足とストレスによる過食が続いたために、独身時代より二十キロ以上も太ってしまった。  三十才にして身長百六十三センチ体重七十六キロのおデブになった美麗は、運転席にもたれて座っているだけで、ふんぞり返って見えてしまうのだ。  彼女は妊娠中に二十五才の誕生日を迎えた。  ブラック・アプロとの約束でその日、体の年令は三十一才になったのだが、目尻に細かなシワががちょこっとできたぐらいで、目立った外見上の変化はほとんどなかった。  だが今や体の年令は三十六才、重すぎる体重が足腰にこたえる。もう少しゆったり座れる車に買い替えてほしいと和哉に頼んでみたが、 「そのまえに、少しは痩せる努力をしたらどうだ」と、一蹴された。  新婚当時はなんでも好きなものを買ってくれた夫も、ここ数年は妙に財布のヒモが固くなってしまい、彼女がカードで新しい服やアクセサリーを買うたびに文句を言う。 ――そういえば、F***の次の車は、どうしたのかしら。  初めてのデートで美麗を迎えに来た時に、和哉が乗っていた派手な黄色いスポーツカー。今年初め、夫は急に買い替えると言って、自慢の愛車を手放したのだが、その後、新しい車は届かない。    
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