第1章

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「血で血を争う戦は、男に任せて、女は女の戦を致しましょう、茶々姫。」 「女の戦でございますか、美加姫。」 「さ、茶菓子でもいただいて、強く参りましょう。」 松千代がゆっくりと茶菓子を置くと、静かにでていった。 「美加姫、ひとこと申し上げなくては。 わたくしは、今はつらくはないのです。」 「そ、そうなのですか、よかった。」 「美加姫は翌日はつらくございましたか。」 「いえ、わたくしは、ただ幸せにございました。 わたくしは、心から、お館様を慕っておりましたゆえ。」 「そうですか・・・。わたくしは叔父上を恨んだこともございました。 弟の万福丸と父を滅ぼした相手ですから。 でも、母からは叔父上を恨むな、織田を恨むな、と教え込まれました。 すべてが戦国の世のならいだと。 確かに、美加姫のいうとおり、わたくしや妹たちが女だからこそ命が助かった。 わたくしにはわたくしのやるべきことがあるということですね。」 「お強い、茶々姫は。」 茶々姫はゆっくりと首をふった。茶菓子を手を伸ばし、二人でおいしくいただいた。 そのとき、がらりとふすまが乱暴に開いた。 信長公がそこにいた。 先に口を開いたのは、美加であった。 「お館様、足音がしないから気付きませんでした。女同士の秘密のお話でしたのに。」 「寺だから気を遣っておるのだ。」そういうとどかっと二人の間に座り込んだ。 「その割に戸を開ける音は大きくございました。」 と美加がいうと、茶々も小声で笑った。
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