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「血で血を争う戦は、男に任せて、女は女の戦を致しましょう、茶々姫。」
「女の戦でございますか、美加姫。」
「さ、茶菓子でもいただいて、強く参りましょう。」
松千代がゆっくりと茶菓子を置くと、静かにでていった。
「美加姫、ひとこと申し上げなくては。
わたくしは、今はつらくはないのです。」
「そ、そうなのですか、よかった。」
「美加姫は翌日はつらくございましたか。」
「いえ、わたくしは、ただ幸せにございました。
わたくしは、心から、お館様を慕っておりましたゆえ。」
「そうですか・・・。わたくしは叔父上を恨んだこともございました。
弟の万福丸と父を滅ぼした相手ですから。
でも、母からは叔父上を恨むな、織田を恨むな、と教え込まれました。
すべてが戦国の世のならいだと。
確かに、美加姫のいうとおり、わたくしや妹たちが女だからこそ命が助かった。
わたくしにはわたくしのやるべきことがあるということですね。」
「お強い、茶々姫は。」
茶々姫はゆっくりと首をふった。茶菓子を手を伸ばし、二人でおいしくいただいた。
そのとき、がらりとふすまが乱暴に開いた。
信長公がそこにいた。
先に口を開いたのは、美加であった。
「お館様、足音がしないから気付きませんでした。女同士の秘密のお話でしたのに。」
「寺だから気を遣っておるのだ。」そういうとどかっと二人の間に座り込んだ。
「その割に戸を開ける音は大きくございました。」
と美加がいうと、茶々も小声で笑った。
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