第1章

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時間があると車を走らせてる。 マリアが近くにいるような気がして。 背の高い長い髪の女が歩いていると、 振り返って顔を確かめたりして。 抜け殻のようになりながら、 でも何とか生きてる。 マリアが戻ってくるような気がして… マリアが居なくなった日からもう2ヶ月。 その間にだんだんとマリアが居なくなった訳が何となくだけど、 わかって来た。 あれは… … 「仁さん。 あのカワイイ子、まだ居るの?」 同じマンションに住む飲み屋のママ。 今時珍しい昭和って感じの店。 「どうしてそんな事を聞くんですか?」 二人で出かけるところでも見かけたのだろうと思ってた。 「え? いつだったかしら。 今月分を持って行ったのよ。 振り込みでって聞いたけどさ、同じ所に住んでるんだし? 手渡した方が手っ取り早いかなと思って…」 2年ほど前だったかな… 株価暴落で全財産を無くして、このままじゃ死ぬしかないと泣きついて来られて。 はっきり言って迷惑な話だ。 俺に言うなよって話で、 そんな事は銀行に相談しろって言ったんだけど、断られたとかで。 何度も何度も言うから仕方なく、 金を貸した。 毎月きっちり返済すると言うから仕方なかったんだ… そこまでして店を守ろうという経営者も今時は珍しかったし。 借用書を書かせて、口座番号を教えて、 振り込みで返済って言ったのに。 口座に履歴がないとめんどくさいんだよ。 計理士が金額が合わないって。 「部屋に来たんですか?」 「カワイイ子で、つい、カラかっちゃった。 仁さんを狙ってる女は履いて捨てるほど居るんだから、 あんたもそのうち捨てられるわよって。 冗談よ、冗談。 あんまりかわいいから、それに幸せそうだからからかってあげただけ。 あの子もわかってるわよ」
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