第1章

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シャワーの後、いつも通り先に済ませた知佐が腕を巻き付けてくる。 大抵はその時の成り行きでリビングのソファーだったりベッドだったり、決まった場所はない。 けれど、その日は珍しく知佐が「今日はベッドにして」と呟いた。 ベッドに倒し、被さりながら素肌に一枚だけの服を取り去る。 唇にキスをしようとしたその時、なぜかあの声が聞こえた。 “キスして、怜” 切なく押し殺した泣き声。 次から次へと目尻から零れる涙。 振り切ろうと目を固く瞑り、知佐の唇を塞ぐ。 ……でも、一瞬で放した。 何かが俺を息苦しくさせる。 胸の中で渦巻くそれが何なのか、知ってはいけない気がした。 不審に思ったのか真顔で俺を見つめている知佐から目を逸らし、耳から首筋へ、もう知り尽くしている知佐の弱い部分へと唇を逃す。 このまま、普段通り抱けばいい。 最低だけど、こんなケースは初めてではない。 気の合いそうな相手で向こうが後腐れのない一夜を求めてくれば、応じたことは過去にある。 最近はなかったし、立ち回るのは面倒だから好んでやる訳ではない。 でもその時は問題なく割りきれていた。 なのに、俺の動きは止まった。
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