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…そんな顛末を、目の前のこの人は想像もしていないだろうし、望みもしないだろう。
「いいんですか?」
汚いものでも見るような彼女の目を真っ直ぐに見返した。
実際、俺は汚い。
裏切るなら完璧にやるべきだったのに、あの時だけは嘘をつくことができなかった。
その中途半端さも全てが汚い。
居心地の良かった知佐に、気持ちがまったくなかった訳じゃない。
なのに、どうしてあんな形で傷つけてしまったのだろう。
「あれ以上新年会のこと詮索されると、困るのは亀岡先輩では?」
あの夜を境に俺だけが狂わされ、引っくり返されていく。
「大丈夫ですよ。何も喋るつもりはありませんから」
俺が悪いと分かっていても、彼女を見ていると頭の命令とは相反する感情が頭をもたげてくる。
「女王様は王子に未練…とかね」
八つ当たりじゃないか。
休憩室を出ながら天井を仰いで嘆息する。
だけど、俺は彼女のあまりに長い苦しみを知っているから、見ていられない。
彼女が置かれた今の状況を。
彼女の苦しみに気づきもせず笑顔を振り撒くあの男を、いつまでも胸の中で抱え続ける彼女を。
一体、いつから俺は彼女を眺めてきたのだろう?
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