第1章

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「…い……」 肩に顔を埋めた彼女が、 微かな囁きを漏らした。 汗ばんだ肌。激しく脈打つ鼓動。 まだ収まらない二人の荒い息が重なる肌に纏いつく。 「怜…」 今度ははっきりと聞き取れた。 やっぱり…、そういうことだ。 唇に苦い笑いが浮かんだ。 まだ熱を残す尽きたばかりの身体とは裏腹に、頭は冴え冴えと冷えていく。 「行かないで……」 それでも彼女の身体をしっかりと抱きなおした。 最初から分かっていた。 期待していた訳じゃない。 「キスして、怜…」 顔をあげた彼女は泣いていた。 幻でも見ているのだろうか。 目は開けているのに、 相手が俺だと分からないらしい。 あの男とも、こんなふうに激しく抱き合ってきたのだろうか。 「最後だから…」 涙を流しつぶやき続ける唇に、 やるせなく唇を重ねる。 「ごめん…」 ようやく眠りに落ちた彼女に囁いた。 キスして、ごめん。 心の中で詫びながら、 涙で湿った黒髪に顔を埋めた。 もう二度と君に触れるまいと、 そう心に誓いながら。
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