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「この池には伝説があんねん。
帝に振り向いてもらわれへんようになったお妃さんが、嘆いて身を投げてんて」
そこまで言うと、雅紀さんは私に視線を戻した。
「でもな、もう一個違う伝説もあんねん。帝に向かえ入れられそうになった娘が、恋人の元に戻るために池に身を投げたふりして、衣だけ残して逃げてんて」
さわさわと、柳の枝が揺れる。
猿沢池を後ろに立つ雅紀さんが、一瞬なにかとフラッシュバックした。
ぱたぱたと勝手に涙が零れ落ちて。
「俺、春ちゃんとは初めて会うた気がせえへん」
その声も、この手の温もりも。
懐かしくて愛しくて、私は大きく頷いた。
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