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一週間のうちで最も慌ただしい月曜の朝――――
「他院からの紹介で5名入院が入るから。10時までに5号室から7号室の部屋移動をお願いします」
看護補助員と私達クラークに申し送られた、主任からの連絡事項。
本来、部屋移動の作業は補助員の業務であるが、大がかりな患者入れ替えがある際は、クラーク、介護員を含め、看護師と医者を省いたスタッフ総出で作業に取り掛かる。
入院書類等の準備を終えた私は、補助さんと一緒に受け入れのための病室準備に走り回っていた。
「沢田さんは療養型病棟に転棟だって。私は本人さんの荷物を運ぶから、安藤さんは入院患者さんのリネンを持って来てくれるかな?」
看護介助スタッフの一人が、衣類やらオムツやらの荷物をてんこ盛りに積んだワゴンを押しながら、私に声を掛けた。
「はい、分かりました。新しい吸引ビンと酸素も運んでおきますね」
「クラークさんに何でもお願いしてごめんなさいね。スタッフが足りない日に限って朝から大移動があるんだから。手が空いてるなら、看護師さん達も少しは手伝ってくれても良いのにさっ」
介助員のボスと言われる彼女が、ステーションに視線を飛ばしながら、目尻と同じくらい年季の入った深いしわを眉間にも寄せてぼやく。
その視線に誘導されて、私はふと廊下を隔てたステーションに目を向けた。
「…ああ。仕方ないですよ。いつもの事です」
介護員vs看護師。介護福祉士vs看護師。どの病棟にも少なからず存在すると言われる、女社会の内輪の対立。
ステーションのカウンターに座り、引っ越しも清潔ケアも我関せずの態度で電子カルテに向かう藤森さんの背中を見て、つられて深いため息を落とした。
「あれで私達より随分いい給料貰ってんだから。やってらんないわよっ!」
介助員のおば様はフンと鼻息を荒くし、その場を私に託して重そうなワゴンを押して行く。
私は廊下を突き進む恰幅の良いお尻を見送った後、頼まれたシーツ類を取りにリネン庫に向かった。
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