冬至

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夕刻に叔母から電話があった。 「聖ちゃん柚子を沢山貰ったから取りに来なさい」 私はまだ日のあるうちにと早速家を出た。 たが、夜の訪れは早く、話好きの叔母の口からは終わりの見えない無駄話が溢れだす。 うんざりしながら、心無い頷きを繰り返す。 「あんたいつになったら結婚するの?」 顔を見るたびに挨拶のように結婚の話を持ち出されると、私もそろそろ40歳だと思い知らされ、気持ちが下降した。 『今日はありがとう叔母さん。帰ってからゆっくり柚子湯を楽しみますね』 「あら、もう帰るの?」 『明日も仕事ですし……また改めて出てきます』 返事が帰ってくる前に、柚子の入った紙袋を片手に腰を上げた。 玄関を出ると吐く息が白く曇った。 コートの襟を立て直し、お礼の言葉もそこそこに歩き出す。 電信柱の街灯は既に黄丹色を放ち、点々と行く手を照らしていた。 立ち並ぶ家々にも明かりが灯り、茶碗を洗う音や団欒の声が洩れていた。 両親を早くに亡くした私には理想の家族像が壁一枚隔てたそこにある。 沸き起こる寂寥を嘲笑い、歩みを早めた。
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