“manfulness”

1/13
70人が本棚に入れています
本棚に追加
/432ページ

“manfulness”

「男の逸品」なんて言葉がある。 「グルメ」とはまったく縁の無い、「美食」なんてものにはほど遠い僕だけど、けっこう自慢できる「一品」が、本当に一つだけある。 「うへ~! マジ~」  僕は、ひとくち口にしたソイツを、すべて吐き出した。 「食べ物を粗末にしない」ことにかけては自信のあった僕だけど… 「お前が食わない物は犬も食わない」なんて言われてた僕だけど… 「なんだよコレ~」  僕は口をゆがめ、渋い顔をする。  さすがにコイツは食べられない。  夏の早朝。  東北の、とある有名な湖の近く。  国道脇の広い駐車スペース。特に駐車場の指定も、区画も区分された場所ではなかったけど、僕はそこの端にバイクを止め、生まれて初めての自炊…  つまり「ゴハンを炊く」行為…を敢行していたのだ。  でも…  林間学校での飯盒(はんごう)炊爨(すいさん)。  職場等の親睦会でのバーベキュー。  そういった場合、だいたい二つのグループに分かれる。  積極的にやる「奉行組」… 「鍋(ナベ)奉行」なんて言葉を御存知か? ようするに、「仕切りたがり」のことだ… と、それを囲む「取り巻き組」だ。  僕は後者の方に属するタイプだったから、火でゴハンを炊いた事など、その時まで一度も無かった。  単に旅の食費を浮かすため、僕は実家の台所から大量に頂いた米をとぎ、新品のガソリン・コンロの火にかけた。 (本当は「ホワイト・ガソリン」という専用の燃料を使うのだが、バイクのガソリン・タンクから抜いたレギュラー・ガスを使えば、持ち物が一つ減る事になる)。 「料理」なんてものにはまったく興味が無かった僕なので、事前の練習は無し。  完璧な自己流で、水の量も火加減も、まったく適当・当てずっぽう。 (だいたい、食べたら無くなってしまう物に手間・暇かけるなんて、僕にはいたって無駄な行為に思えるのだ)。 『こんなもんだろ』  そう思って火を止めたのだが… 「仕方ないよな…」  芯の残ったボソボソのゴハン。僕はソイツをすべて捨て去った。image=487858540.jpg
/432ページ

最初のコメントを投稿しよう!