実りの秋…

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席を立ち、帰ろうとする透に、片山が言った。 「ひとつ、私から、提案をさせてもらってもいいかな、花澤君。」 「…はい。」 「君が、就きたいと思う教員という仕事は、すぐ目の前に、可能性が数%とはいえ、あるわけだ。 それを、全部捨ててくれとは、私は、君に、強制は出来ない。 …かといって、これで、君と、さようならというのも、私的には、納得いかないしね。 そこでだ、条件を出そうじゃないか。」 「条件ですか…。」 「そう、条件。 君は、最終まで残りながら、正規採用されなかったことが、心残りなんだろう? なら、来年も、受けなさい試験を。来年、最終まで残れたら、私は、きっぱり、君を諦めるよ。 その後、好きなだけ受け続ければいいよ、君が、納得するまでね。 だけど、そこまで残れなかった時は、君が諦めて、私のところで、働く。 …と、いうのは、どうだろうか? どちらに転んでも、君にとって、マイナスには、ならない話だと思うんだけれど。」 「…いいんですか?」 「本当は、よくないね。こんな駆け引きするのも、約束するのも…。」 「ありがとうございます。」 「ああ、お礼はいらないよ。私の打算があってのことだからね。 そうだ!…これから、冬の長距離ランの季節だから、大会も多いし、授業のない日は、極力、ここへ来てくれるかな。手伝いに。 ここの仕事、手伝ってみて、気が変わるということもありえるしね。」 嬉しい反面、狡猾な大人は、敵に廻すべきじゃないと、痛感した。
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