小鳥の羽ばたき、或いは堕ちる音

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指定された住所は、駅前の高層マンション。 常駐するコンシェルジュに案内されて、僕は緊張しながらエレベーターに乗り込んだ。 メモに書いてある部屋番号の扉の前に立つと、扉が開いて中からスーツ姿の男性が現れた。 「天海くん?」 「はい。木村教授から紹介していただきました、天海です」 「渡(わたり)だ。入って」 確かに、テレビで見たことのある顔。 言われるまま、足を進めた。 無言のまま振り返りもせず奥へと進む渡さんの後ろを、慌てて靴を脱いで追いかける。 一番奥の部屋の扉を、渡さんはノックもせずに開いた。 「翔生(かい)、家庭教師の先生だ」 渡さんの肩越しに、真っ暗な部屋の窓際に立つ少年の後ろ姿が見えた。 窓の向こうに広がる夜景が、少年の輪郭を薄っすらと浮かび上がらせる。 「電気くらいつけなさい」 渡さんの手が壁のスイッチを押した。 白々とした明かりが灯り、少年が振り返った。 切れ長の黒目がちな目元。 少し長めの前髪が頬にかかる。 細い首。細い手足。白い肌。 精悍な雰囲気の父親とはあまりに違いすぎて、僕は一瞬戸惑った。 「挨拶しなさい」 低く響く渡さんの声に、少年が小さく口を開いた。 「……渡……翔生、です」 変声期を終えたばかりの掠れた声で、翔生は小さく呟いた。
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