小鳥の羽ばたき、或いは堕ちる音

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「ねえ、春香(はるか)。例えば、清潔な部屋と食べる物はきちんと与えて、十分な教育も受けさせているんだけれど、親がほとんど子供の前に姿を現さないっていうのは、児童虐待に入るのかな」 氷が溶けて少し薄くなったコーラを飲みながら、僕は春香に尋ねてみた。 昼間のファミレスは混み合っていて、隣の席では家族連れが楽しそうにメニューを眺めている。ウエイトレスがまだ小さな女の子のために、子供用の椅子を運んできた。 春香は箸の先のハンバーグを口に入れて咀嚼し飲み込んだ後、ゆっくりと口を開いた。 「どうだろう。家庭の事情でどうしても親が家を空けなきゃいけないってこともあるかもしれないし……。でも、顔を合わせる時間が少なくても、ちゃんと親が愛情を持って接しているなら、ネグレクトにはならないんじゃないかな?」 春香の言葉に頷く。 翔生の場合はどうなのだろう。 少なくとも、一度しか見ていない翔生の父親の態度からは、愛情よりも冷たさしか感じることができなかった。 「難しいことは分からないけど。新しい家庭教師先の話?なにか気になることでもあるの?」 著名な弁護士だ。問題になるようなことをするはずがない。 「……いや。それより、しばらく夜はバイトで春香とあんまり会えなくなるね。ごめん」 付き合い始めてまだ3ヶ月ほどしか経っていないのに夜のデートはお預けなんて、文句を言われても仕方がない。 「いいよ、昼間はこうして会えるんだし。私も年末までバイト増やそうかと思ってるんだ。あ、でも、クリスマスは休めるよね?」 僕はストローを咥えたまま頷いた。
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