プロローグ

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 吾輩は猫である。名前はいくつかある。  最初は当然のように「クロ」と命名され、それ以降にも「ジジ」やら「鮭太郎」やら「カカオ」やら色んな名前を付けられたもんだが、やはり「クロ」の割合は九割を下回らない。  野良猫として日本各地を転々とし、約半世紀を生きてきたのだから、そうなるのも当然のことである。  因みに、俺が普段使う一人称は吾輩などではない。折角猫として生まれ、こうして文字で語る機会があるのだから、一度やってみたかっただけである。  しかしながら、いくら「見た目は黒猫、頭脳は人間」だとはいっても、毛深くて肉球がプリティーなこの前足では、書籍も電子書籍も閲覧は困難であるため、かの有名な猫の語りの文章を目にしたことは一度もない。  何故俺は猫の身分でこうも長生きなのか。何故人間並の知性があるのか。この五十年弱で分かることは何一つなかった。ググりたくとも、俺にはパソコンもスマホも操作できない。この情報社会に取り残され、最早開き直って猫らしくのんびりと毎日を気ままに過ごしている次第である。  六歳頃には人間の言葉が完全に理解できるようになっていたため、ある程度までの情報の入手には大して困らない。  かつて俺に「常闇の使い魔(サーヴァントオブダーク)」と名付けた少年が中二病という流行り病であることは知っていたし、2011年の3月には自動販売機の下を漁っては募金箱に小銭を運んだりもした。  一応言葉を話すことも可能なのだが、そうすると困ったことになるので人と話すのは自粛している。俺が喋った際、語尾にはやはり「~ニャ」を付けるべきか否かで悩まなければならないし、喋る猫の妖怪だなんて子供達から友達になってくれとせがまれそうで面倒臭そうだ。  他者を縛ることが好きな人間と違い、猫の付き合いは淡白なものである。猫である俺には、人間の友達は不要。縛られるのはごめんなのだ。  しかし、人間関係というのは眺めている分には実に楽しいものである。特に、十代半ばからの三年間。高校生を眺めているのが、俺は好きだ。  あそこには、人間の大人社会にも、猫社会にもない、独自の空気がある。中学生もある意味面白いし、大学は住み心地が良いが、やはり俺はいつも高校を住処に選ぶ。あの、大人に足を踏み入れつつも子供に近い絶妙な時期が一番なのだ。
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