1、森高くんの話

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 僕は、彼女が知らない男とキスをしているのを見たくなかった。  路肩に停まっている車高の低い黒のワンボックスカー。  フロントガラスの向こう。  車道も、電柱も、正面から来る通行人も、紺色の空も、何もかも視界から消えて。  男になされるがまま、唇を貪られる彼女だけが網膜に焼き付いた。  奇妙な熱が全身を駆け巡る。  一瞬で喉がカラカラになる。  拳のなかは湿っていく。  彼女が薄く瞼を開けて、僕を見た。
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