第1章 だめだめイケメン

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三黒明太は、直立不動の姿勢で、脂汗をかいていた。 そこは狭い部屋で、目の前には、粗末な事務デスクに座っている中年男性がいる。 男性は足と腕を組み、さっきから怒鳴りっぱなしだ。 この地域に3店舗あるだけの、あまり大きくない電気量販店の支店長室である。 男性は支店長の小菅 頼三。 もう、20分ほど説教を続けている。 「…ということだよ。 アルバイトだからって、こういう間違いはあり得ないだろう。 明日から、来なくていいから。 今までのバイト代は振り込んでおく。」 明太は力なく、 「はい、すみません。 お世話になりました。」 と、言うと、部屋を出た。 明太は、街の中規模電器店に、式野 春と2人で、アルバイトに入っていた。 2人とも入って1週間目である。 明太は、すでに他のアルバイトを2件、クビになってここにいるのだが、それも今日までで、通算3件ともクビになったわけだ。 彼は、まだ、今日の就業時間があるので、店舗の方に戻ってきた。 春は、接客中だった。 若い男が、デジカメの説明を春から受けている。 爽やかな雰囲気の、好青年である。 明太は一昨日もその男が来ていたのを覚えている。 明太には、男が春と話したいがために、通っているようにも、見える。 男は、安価なデジカメを、購入して帰った。本当にデジカメを買おうと数日かけて選んでいたのかもしれない。 春は、明太の抱いているだろう懐疑には気がついている。 しかし、客が、特定の女性店員の顔を見たくて来るのは、密かによくあることだ。 それだけでは、気にする必要はないはずだが、明太の顔には、面白くないと書いてある。 それもこれも、春は、初夏にイメージチェンジに成功して以来、急激にもてだしたという背景があるからだ。
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