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『第…回、…大学入学式を始めます。一同、礼。』
「ねぇ、あれ、何かな?紙袋?」
「スーツに紙袋……前見えてると思う?」
「いや、流石に目の所は穴とか空いてるんじゃない?」
大学の入学式。退屈極まりない空間に、異質な物がひとつ。
「はじめまして!俺、入見正矢って言います!これ?面白いでしょ?俺のアイデンティティです!もしよかったら、このままの俺を受け入れてくれたら嬉しいです!」
講義の1番初め、自己紹介の時間に高らかにそう言った男の格好は、その年に見合った格好だ。ひとつ、頭を完全に隠す紙袋を被っているという事を覗いて。講義開始以前から注目を浴びていた彼は、顔が見えていればニコニコと微笑んでいたであろう明るい声をしている。表情が声に出るタイプの様だ。
その事もあるのか、元々の性格が良いのか、彼は周りに受け入れられた。
「入見くーん、今日の紙袋のお題はー?」
「おー?今日は少し遅いけど桜だ!みんな、俺を見ながら花見してくれても良いぜ!」
「じゃあお昼ここに来なよー!おやつくらいなら少し分けてあげるー!」
「ラッキー!じゃあ昼な!」
紙袋のデザインは毎日変わる。自分で用意しているのか、シールが貼ってあったり目の切り方が変わっていたり。そういった細々したセンスもあり、特にかわいいもの好きの女子からは人気だ。ただし、男としては見られていない様だが。
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